2022/06/29 - 13:32

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入門:日本の食料自給率

令和元年(2019)年度の日本の食料自給率は38%だったらしい。私たちが日々食べている食料の約6割が国産ではないという意味である。そう聞くと「ほぼ輸入じゃね?」と思うかもしれない。それに、この状況は国として「正しい」のか憂う人もいるだろう。もし日本へ食料を輸出している国で不作が起きたら…とか、なんらかの戦争の影響で急に食料供給が絶たれたら…など心配は尽きない。そういう意味で食料自給率は国民の生命を守っていくために重要な指標であると考えられており、現在農林水産省は2025年までに食料自給率を45%まで引き上げることを目標にしている。この記事では何故目標が45%なのか、そして上記のような食料供給に関するリスクがどの程度現実的なものなのかには踏み込まない。それは単純に現在の私の手に負えないし、そして自給率目標は結局のところ「政治判断」だと思うからだ。まずは、現在の立ち位置を知るところから始めてみよう。

食料自給率とは何か – カロリー・生産額ベースでの計算方法

食料自給率が38%とか45%というのは具体的にどういう意味なのだろうか。実は食料自給率の計算方法は3つあり、前述の数値は摂取カロリーをベースに計算されたものである。2019年を例に詳しく見てみると以下の通りだ。

カロリーベース 食料自給率 公式

供給カロリーというのは、実際に人々が食べた(摂取した)カロリーとは違うことに注意しよう。農林水産省が公表している供給熱量は、食用として日本の市場に供給された食料をカロリーに換算したものであり、最終的に廃棄され消費されなかった食料も含まれているわけだ。日本で一般に食料自給率というと、カロリーベースの食料自給率を意味すると覚えておくといいだろう。

国際社会でより一般的な計算方法として、生産額をベースにするものがある。国内の食料生産額を国内に供給された全食料の金額で割る方法である。この方法で算出された2019年度の日本の食料自給率は66%である(国内生産10.3兆円/国内消費仕向額 15.8兆円×100)。農林水産省が公表している諸外国との比較を見てみよう。確かにカロリーベースでは大分ヤバそうだが、生産額ベースではそんなに悪いようには見えない。

世界の食料自給率

カロリーベースと生産額ベースで数値が大きく異なるのはなぜか。理由は大きく二つある。第一に肉・卵の計算上の取り扱いによる差、そして第二に野菜など金額は大きいがカロリーは低い品目による差である。カロリーベースの計算では、日本で育てられた家畜でも飼料(エサ)を輸入に頼っていると完全に国産とはみなされない。例えばある畜産農家が使用する飼料の90%が輸入品であれば、単純にその肉から供給されるカロリーの10%しか国産として計算されないということである。日本の飼料自給率は25%(2019年)であり、結果的にカロリーベースの自給率が大きく下がっているのだろう。これに対し、生産額ベースでは飼料の輸入は加味されていない。2番目の理由については比較的理解しやすいだろう。例えばレタスはほぼ100%国産であり1玉100円前後で買えるが、カロリーにするとわずか40kcal程度である。

日本 食料自給率推移
日本 食料自給率推移 ソース

カロリー・金額ベース自給率の欠点

前述した2通りの計算方法は「総合食料自給率」と呼ばれており、私たちが日々消費する食料を一つの物差しへ凝縮して算出されている(カロリー or 金額)。このシンプルな考え方は計算も比較的楽だろうし、見る側としても全体の雰囲気をつかむのに有用であるが、もちろん欠点もある。

そもそも人間が必要な栄養素はカロリーだけではない。筆者(20代男性)が一日に必要なカロリーを白米だけで摂取したらどうなるか以下に示した。糖質と炭水化物を過剰摂取しているのに対し、塩分・たんぱく質・脂質が全然足りていない。カロリーベースによる計算は、人間が健康に生きていくために必要な食料の自給率とイコールではないことは認識しておくとよいだろう。金額ベースで考えても同じことが起こる。値段とカロリー/栄養価は必ずしも比例しないのである。

栄養管理アプリ カロミル
栄養管理アプリ:カロミルより

結局のところ、正しく食料自給率を評価するためには品目ごと地道に見ていくしかないのかもしれない。筆者は前職で消費財の売上(需要)予測を担当していた。偉い人はいくら売れるのかを気にするので最終的には金額ベースで話をするが、実際には製品ごとの販売個数を積み上げていくしかないのである。売り上げも自給率も、最終的な数値の構成や積み上がり方を分析することで深い理解が得られるのだろう。

品目別自給率 – 品目ごとに重量ベースで計算

食料自給率3種の最後がこの品目別自給率である。これは総合食料自給率のように食料全てを一まとめにするのではなく、品目ごとに、重量をベースに計算されるものだ(例えばキャベツの国内生産量xトン/キャベツの消費向け流通量yトン×100という具合)。まずは品目ごとの大まかなデータを見てみよう。

品目別 食料自給率
ソース: 食料自給表より筆者作成

米・じゃがいも・野菜・魚介類は善戦しているが、小麦や我らが大豆さま、そして肉類が軒並み死亡している。肉類については飼料輸入を加味しなければそこそこ自給率が高いことに注目である。カロリーベースでの計算で過小評価されてしまう「野菜」を細かく見てみると、少なくとも筆者がよく食べるものはほぼ国産であることが分かる。ぱっと見気になるのはトマト・ブロッコリー・アスパラガスくらいなものだ。

野菜 食料自給率
日本国内食品自給率ホームページ より抜粋して筆者作成

おわりに

品目別自給率を見ると、肉類・小麦・砂糖・大豆・油脂類が懸念材料に見える。なぜそれらの自給率が低いのか少し考えてみよう。大豆については消費動向よりも輸入自由化の影響が大きいと思われるが、その他については食生活の変化が大きな要因に見える。1960年と2019年を比較すると、肉類・小麦・砂糖・油脂類の消費量はそれぞれ5倍、1.3倍、1.2倍、3.5倍になっている。この期間に米の消費量は半分になった。高度経済成長期に洋食化が進み、国産で賄えないものを輸入に頼ってきたという事実を考えれば、結果的に日本の食料自給率が低いのも納得できるだろう。

食料自給率(カロリー&重量)を手っ取り早く上げるには、まず国産飼料を増やすべきだと思われる。ただし、面積の小さい日本でどの程度自給率を高められるのか、そしてそれはコスパがいいのかということが争点になると思われる。大豆や小麦についても同じような議論が可能だ。労働力や土地など、国内の限られた資源をどれだけ食料生産へ割り振るべきかというのも「政治判断」の一つだろう。天変地異を恐れて無理やり自給率を高めるよりも、より多くの輸入先を見つけることでリスクヘッジをするというのも作戦の一つかもしれない(例えば現在の飼料輸入はアメリカ・ブラジル・オーストラリアに大きく依存している)。

あるいは肉生産という「非効率な」ことはやめて、植物由来の人工肉を作るというのも解決策になり得るかもしれない。

食料自給率というのは一晩で改善させられるような指標ではないので、これからの動向を気長に見守っていきたいと思う。たまに「食料自給率x%」みたいなニュースが報道されたとき、この文章が読者の理解の助けになれたら光栄です。


読書のすすめ

農業とはなにか、稲作・野菜・果物・畜産の生産動向や日本・世界の食糧事情など、基本から学べる一冊。入門書としておススメ。

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