2022/06/29 - 13:28

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経済成長の歴史: 成長を可能にする4条件

現在は当たり前のように見えることでも、歴史を振り返ると意外と”最近”のトレンドである事がある。経済は成長するものであり、それが国家のゴールの一つであるという感覚もその一つのようだ。イギリスの経済学者アンガス・マディソンが発表したデータによれば、一人当たりGDPでみた世界経済が成長へ舵を切ったのは19世紀であり※1、それ以前の人間社会においては(平均的に見て)経済は成長しないものであった。少し脱線するが、衆愚政治の懸念からネガティブな語感を持っていた民主主義という言葉が、ポジティブに捉えられるようになったのもこの時期のようである※2

GDP per Capita over time
Maddison The World Economy: A Millennial Perspective, 264を基に筆者が作成

経済成長の意味

そもそも経済が成長するとは何を意味しており、なぜそれが好ましいのだろうか。一般的に言って、消費できる物の量や種類が多い方が人々はよい暮らしが出来るはずだ。一日一食よりは三食のほうがお腹はいっぱいになるし、ハンバーガー・肉うどん・ペペロンチーノなど種類が多い方が食事も楽しい。消費をするためには先に生産しなければならないため、人間の生活水準はどのくらい生産出来るかということに依存し、その効率が上がる(生産性が上がる)と生活は豊かになるわけである3。つまり経済の成長とは生産性の増加であり、それが生活水準・暮らしの豊かさの向上につながる点で好ましいのだろう。

生産性の決定要因

生産性というのは当然ながら、生産に使用される要素によって決定される。(1) 米を耕すための土地や機械を動かす燃料といった自然資源、(2)使用する道具・機械、(3)作業する人の知識・経験や単純な労働量、(4)そして前述の三つの全ての効率へ影響を与える科学・技術知識の水準である4。こういった生産要素へ投資を行うことで生産性が上昇するというのは自明に見える。しかし、国家や集団が経済の成長へ飛び立つためには、まず制度や仕組みの点でクリアしなければならない条件があるようだ。

経済成長を可能にする4条件

経済成長を可能する社会制度・仕組みについて、アメリカの投資理論家・歴史研究家のウィリアム・バーンスタインは、著書【「豊かさ」の誕生】の中で以下4つを紹介している。その4つが全て揃って初めて国家は経済成長へギアチェンジするのであり、それは19世紀の欧米で初めて実現することになった5。1760年頃始まったとされる産業革命とマディソンのデータによって観測される経済成長の始まり(19C)には若干のタイムギャップがあり、バーンスタインの主張はその原因を理解する大きな手助けとなるのではないだろうか。適切な社会的土壌なしに技術だけが存在しても、経済成長には不十分であると。

1. 私有財産権
作った作物や商品が盗まれても補償されない・泥棒も罰せられないような環境において人々は生産量を必要以上に増やす動機がない。
2. 科学的合理主義
宗教団体や国家が「正しさ」を固定してしまい、新たな発見・解釈をした者に拷問や処刑を行う社会では技術レベルは進歩しにくい。
3. 近代的資本市場
画期的なアイデアがあっても資金をあつめることが出来なければ、発明をビジネスへ発展させることが出来ない。有限責任会社という起業家のリスクを軽減する仕組みがなければ(それまでは債務不履行は刑務所行きや奴隷落ちを意味した)、新事業に挑戦する人は少なくなる。
4. 効率的な輸送・通信手段
どれだけ生産力があっても必要とする人に届けることが出来なければ作る意味がない。
製品の宣伝や、実業家と投資家の効率的なマッチングには、確かな情報伝達が必要である。

以下は1960年以降の一人当たり実質GDPを地域ごとに示したものである※6
地域ごとにトレンドが異なっているのが見て取れる。ある国や地域が長期的に見てなぜ経済成長をしていないのか考えるときは、まず成長の基盤となる4条件が存在しているか、そして過去の投資水準はどうなっているのか確認してみると良いかもしれない。

私有財産権の重要性

上のグラフでほぼ成長が見られない地域を分析する上で、私有財産権は非常に重要である。結局のところ経済というのは個人の集合体であり、各々が生産性を増やそうとするインセンティブなしには全体の成長も望めないからである。歴史的に経済は以下のプロセスを経て成長する※7
(1) 自分の土地を得た人々が設備投資・灌漑などを行って農業生産性が上昇する。
(2) 農業から軽工業へ労働力が移動、その輸出によって更なる工業化への投資資金を確保する。
農民はなぜ生産性を上げようと努力するのだろう。それは自分で土地を所有することで封建領主や大地主による搾取を恐れる必要がなくなり「努力が報われる」未来が見えるからである。

おわりに

未来への期待あるいは[成長]は近現代のキーワードだ。
今ある貴重なお金を投資するということは、未来がよりよくなるという予想に基づくものである。
成長に伴う物質的な豊かさの増加はある程度までは人間を幸せにするだろう。しかし、すでに「十分」生活水準が高い国にとって更なる経済成長が何を意味するのかは難しい問題であるし、そもそも永遠の成長が可能なのかというのも重要な問いであろう。個人が認識する生活水準というのは相対的なもので、一般的に人は自分が記憶している過去や知人と比べることでしか豊かさの変化を感じることが出来ない※8。停滞している経済において人々は、衣食住が満たされていたとしてもストレスや閉塞感を感じるかもしれないし、そういった精神状態が政治へ与える影響も軽視できない。歴史を振り返る限り、民主主義というのは国民の経済力の発展に推し進められて成熟してきたようである※9。永遠の成長が不可能だとすれば、成長の終焉は他者に不寛容な世界をもたらすかもしれない。あるいは根本的な価値観の転換が必要になるだろうか。これからの経済が、人間社会が、どう変化していくか大変興味深い。


脚注:

1. Maddison The World Economy: A Millennial Perspective, 264
2. 民主主義とは何か (宇野重規, 講談社現代新書)
3. もちろん物を作っても売れなければ意味はない。ここでは長期の経済を想定している。
4. マンキュー経済学IIマクロ編 (Nグレゴリー・マンキュー著, 東洋経済新報社)
経済学でいうところの、物的資本・人的資本・天然資源・技術知識。
5.「豊かさ」の誕生 成長と発展の文明史 (ウィリアム・バーンスタイン, 日経BP)
6. データセットはこちら。上記のグラフは非常に大雑把であるので、詳しく分析したい方はぜひソースを見に行っていただければ。
7. 戦後世界経済史 自由と平等の視点から (猪木武徳, 中央公論新社)
8. The Moral Consequences of Economic Growth (Benjamin M. Friedman, Vintage Books
9.孫引きで恐縮であるが、「豊かさ」の誕生 成長と発展の文明史 下巻によるとミシガン大学のロナルド・イングルハートとブ  レーメン国際大学のクリスチャン・ヴェルツェルは「生存/自己表現」 調査によってこれを示した。

読書のおすすめ

あるテーマについて入門書をパラパラめくっていても、点の知識が増えるだけでストーリーが見えてこないことがある。今回は【「豊かさ」の誕生】を読んで急に脳の回転数が上がった気がした。いい本に出会えた時はとても嬉しい。本文で紹介した4つの条件について、各国の例を挙げながら重要性を説明している。テーマは経済成長だけど、当時の人々の生活を垣間見る民族誌的にも面白いかもしれない。

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