宗教とは何か
宗教とは自分という存在、そして世界に意味や説明を与える神聖な物語である。
飢餓・疫病・暴力のため、自分が明日も生きていられるかすら不確実であった歴史の大半において、宗教は、(時には理不尽な)出来事に説明や意味を与え、死後に訪れる幸福を約束することで人々に心の安らぎを与えてきた。
同じ物語の共有は人々がお互いを信頼することや、何らかのゴールに向かって協力することを容易にする。同時に、宗教は集団で生活する中で守るべきルールも規定する。このような宗教の特性は農業移行後の人類史において、巨大化する社会の秩序を保つ上で重要な役割を果たした。
宗教とは文化の構成要素の一つであり、文化自体が多種多様であるため、宗教も世界に数多く存在する。キリスト教・イスラム教・仏教・ヒンドゥー教・神道などいろいろな宗教が存在し、神という存在に唯一性を見出す一神教や、多種多様な神の存在を受け入れる多神教、あるいはあらゆるものに霊が宿るとするアニミズムなど、信仰の形は様々である。
ただし、神聖なストーリーの他にも、宗教と呼ばれるものに共通する特徴が4つあるようだ※1。
- 科学では証明することのできない、超自然的・超人間的な存在や状態を前提としていること
(神・聖霊・魂・悟り・ブラフマンなど) - 上記のような存在と交流を持ったり、状態に近づくために行われる儀式・儀礼があること
- 宗教儀式や教えの専門家が存在すること (シャーマン、聖職者、僧侶など)
- その宗教文脈においてのみ意味をなす象徴/シンボルシステムを持っていること (キリスト教における13という数字・仏教における蓮の花など)
主要宗教の地理的分布は以下の通り。
一般的に、一国の経済状況が良くなるにつれて宗教の求心力は弱くなる。生存は当たり前になり、世界は科学によって説明され、自由を欲する人間は神を信じる理由を失っていく。
冒頭に紹介した定義では、物語が神聖であることを宗教の条件とし、またこれは一般的解釈とも一致するであろう。ただし、民主主義・資本主義・消費主義などなど、現在当たり前と思って生きている考え方や仕組みも、社会秩序を保つための理想やストーリーと考えるとある種の宗教性が見られて面白いかもしれない。
参考文献
Culture Counts: A Concise Introduction to Cultural Anthropology 3rd Edition
著: Serena Nanda, Richard L. Warms
※1はP265をベースにしているが、()内は筆者による補足である。
サピエンス全史
著: ユヴァル・ノア・ハラリ, 翻訳: 柴田裕之
文化的進化論:人々の価値観と行動が世界をつくりかえる
著: ロナルド・イングルハート, 翻訳: 山﨑聖子
教養としての宗教入門
著:中村圭志